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2024/05/02 00:30 |
さよならのことば
さよならのことば(短編)
 ―――ここは好きだったのかな…―――

 そんなことを思う。
 今日は終業式、そして明後日は引越し。
 父さんの仕事で2年に1回くらいの割合で引越ししてた。
 転勤族だから転勤は仕方ないって。
 何回もそう思った。

 父さんはいつも「転勤が多くてすまない」って
 僕に言うけどもう慣れっこだった。
 同時、慣れてしまってる自分に嫌気がさしたりする。


「新村くんは明後日引越しします」


 ―――そう言えば今教室の1番前に立ってるんだっけ―――

 担任の先生の言葉が耳に聞こえ、我に返る。
 ふと窓を見ると下には運動場があって上には空がある。
 終業式だからまだ昼前で運動場には太陽の光が溢れてた。
 まばらに見える生徒はみんな足取りが軽い。
 
 ここで息をひとつ。


「お世話になりました」


 そんな言葉を言いながら僕はしれっとした顔で自分の席に戻る。 
 途中、何も聞かされてなかったクラスメートからいろいろと声をかけられるけど僕はそれを笑ってごまかした。

 後ろから数えた方が早いところにある席に戻り、何でもないように椅子に座る。
 前や後、横からクラスメートから何か言ってくるけどそれもまた笑ってごまかした。


 ここで息をもうひとつ。


 そして。あんまりに煩くて窓の外へ視線を逃がす。
 目の先には見慣れた景色が広がる。
 どっか、逃げても逃げられてない感じがして苦笑してみたりする。


 もう1回大きく息を吐く。


 それがなんだか妙に、寂しかった。
























「なぁ、聖。…引越しすんの?」
「……うん。」
「ふぅん……」

 いつもと変わらず、聡と一緒に帰る。
 思えば聡と一緒にいたのは中学1年生と中学2年生と、たったの2年間。
 3年生になったら僕はもう、いない。

 聡も僕と一緒の転勤族でたまたま中学校1年の時に同じ転入生としてクラスの前に立っていた。
 それから何でか知らないけどよく一緒にいた。
 帰る方向も微妙に同じでよく一緒に帰った。


「どこ行くの?」
「さぁ………別にどこでもあんま変わんないし」
「そっか」
「うん。」


 ぽつりぽつりとそんな会話を交わす。
 聡とはいつもこんな感じだった。
 2人とも無口でマイペースで。きっと2人とも何かの虫みたいに周りに溶け込むのが上手いんだと思う。


「聡はまだココにいんの?」
「うん……来年くらいまでいると思う」
「ふぅん…」

 
 お互いに顔を見るわけでもなく。
 笑うでもなく。ただ淡々と。
 でも、そっちの方が好き。
 うるさくないし、静かで好きだった。

 2人とも部活に入ってなかった。
 ―――どうせ転校するから―――
 前にそんなことを話して意見が一致してた。
 なんか、無駄っぽくて。

 それに。別れるのが今までよりも寂しいかもしれないし。

 これは僕の考えだけど。


「似てるよね。」
「……?」
「オレと聖ってなんか……」
「多分……」


 ―――似てるよ―――

 そんな言葉が喉まで出てどこかへ消えていった。

 ふと。空を見上げた。
 おあつらえ向きに飛行機雲がひとすじ見えた。































 左と右と。道が分かれてる。
 ここで、聡ともお別れ。

 ぴたりと。
 なんでか2人とも同時に足が止まる。

「……」
「………」

 思わず顔を見合わせ、ふわりと笑った。


「じゃあ」
「うん。」


 僕は向こうの住所を教えてないし、聡も来年はもう、住む場所が変わってる。

 だから。
 きっと。

 もう、会えない。










「いつか、会えるかな」













「会えないだろ」











 僕の言葉に聡は迷うことなくそう答えてくれた。
 自分でもなんでこんなことを訊いたのか分からなかった。


 ―――いつもは僕の言葉なのに―――


 ふと、思う。
 瞬間。
 なんだか後悔した。


 少し、辛くなったから。


 どっか塞がっててたどこかを間違えて開けてしまったような、そんな感じ。

 そして。懐かしい感じ。
 それはどんどん身体中に広がっていった。



「なに泣いてんの」



 聡の言葉に気が付く。
 僕はなんでかよく分からないけど。


 泣いてた。

























 昔、1回引越しで泣いたことがあった。
 小学生のころ。引越しの時も悲しかったけど、それ以上に、それまで仲の良かった友だちから手紙を出しても全然返事が返ってこなかった時。

 ―――もう、友だちじゃないんだ―――

 そんなことをぐるぐる考えてたらいつの間にか泣いてた。















「大丈夫?」
「………うん」





 泣きながら精一杯答えた言葉はそれだけで、後は何も言えなかった。
 結局、聡は家まで一緒に歩いてくれた。
 会話なんて全然なかったけど。

 ちょっと恥かしかったけど、なんか嬉しかった。


「じゃ、帰るな」
「………うん。」









「ばいばい。」








 帰り際、ようやく言えた言葉。
 その言葉に聡は振り返って手を振った。


「ばいばい」


 聞こえないくらいの声でもう1度。
 そして、手を振った。




 ―――手紙を書こう―――





 聡の姿が見えなくなって。
 ふと思った。




 見上げた空にはまだ、飛行機雲があった。
















さよならのことば <終>
Copyright(c)2001-2007 Riku Amaki all right reserved.
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2007/08/06 17:56 | Comments(0) | TrackBack() | 短編

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