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2024/11/22 23:15 |
キセキ
キセキ(短編)
「キセキでも起こらねぇと無理だって……か」
 写真を見ながらふとそうつぶやいていた。
 昔の写真。
 昔、高校を卒業する直前の写真。
 友だちとの写真。
 そして最後のオレの言葉。

 別にそんなに親しくなかったけど、それでも不思議と気が合うような気がして割と色々と話をしたりしてた。


 他の連中とはできないような話。
 『人間』とか『生きる意味』とか『夢』とか。若かったんだと思う。
悩むヒマがあったんだと思う。
 多分、それで、そうやって話合うだけでも満足だったんだと思う。

 それでもなぜかいつも2人きりで話していると時間を忘れて話し合ってたような気がする。


 忙しさにかまけていつの間にか手元から離れていったものがいっぱいあった。
 『夢』とか。
 別に今の仕事が不満なワケじゃない。
 自分で望んだ仕事。
 仕事をしていると他の何も考えられないくらい忙しくなる。
 自分を追い詰めて、追い詰めて、追い詰めて。
 もしかしたら逃げてるのかも知れない。
 ただ、考える暇がなくてよく分からない。


「どうしたの? 克己」
 向こうから声がかかる。


 そう、僕には守るべき者がいる。
 いや、違う。
 2人で2人を守っていくんだ。
 多分。

 よく分からないけど。
 今は幸せだと思う。
 多分、これでいい。



「ねぇ、これどうするの?」
 向こうから声がかかる。
「ちょっと待って。今行くよ」
 そう答えてから立ち上がり、妻のいる方へと行く。


 今日は引越しに備えての荷造りの日。
 漁ってるといろんなものが出てくる。
 アルバムやら日記やらノートやら。
 多分、長く住んでると家がタイムカプセルになってるんだと思う。
 いつ開かれるかも分からない。
 もしかしたら一生開かれないかも知れない。
 そんなタイムカプセル。

 ただ、荷造りが遅れていくことは確かだったりする。


「で、これどうするの?」
 そう言って僕に見せたのはスケジュール帳。
「あーうん」

 そう曖昧な返事をしながらスケジュール帳を受け取りぺらぺらとめくったりしてみる。


「ああ、そう言えばこんなことあったな。高校の時」

 書き込まれているスケジュールに笑いが出てくる。
 1つ1つが大切な思い出……のはずだった。
 悲しいけどホントは少しずつ少しずつ磨り減っていってる。
 だけど、多分死ぬまでにはそれは全部磨り減らないと思う。
 何かが最後まで残るんだと思う。

 それでいい。
 そう思う。
 いや、そう思いたい。



「これも持っていくか」
 妻にそう微笑みながら足元にあったダンボール箱に入れる。
「じゃ、これは?」
 今度は絵の具のセット。

 もう、覚えてない……ハズ。



「昔ね、画家とか目指してた時期があったんだ」
 ぽつり。
 そう漏らす。

「ふーん。でも私アナタの描いた絵は見たことないわよ」
「うん。筆を置いたってやつかな。大したもんじゃないけど」
「ふーん……じゃ、置いとこうね。これも」
「………うん」

 少し悩んだ末そう答えた。
 本当は捨ててしまいたい。
 だけど、できない。

『存在を忘れてたんだ。だからもういい』
 本当はこう言いたかった。
 でも言えなかったってことは多分まだどこかに何かが残ってるんだと思う。

 思い出。夢。希望。未来。

 もうしなびてしまったようなそれら全部が。
 どこから甦ってきそうで怖かったから。
 かなり大げさになるけど、今の生活を否定されそうで。


「ね、ご飯食べに行こう」
 いつの間にか後に立っていた妻からそんな声がかかる。
「あ、うん。そうだね。家がこんなだしね」
 まさに「ひっくり返した」ようになっている部屋を指しながら言う。
 そう言って振り向くと妻が笑っている。
 それを見ると幸せになる。嬉しくなる。温まる。

 紛れもない、幸せの形だった。




 夜。
 妻と2人で久しぶりに街に出ていた。
 ネオンが優しく感じる。
 優しく2人を包んでくれるような、そんな感じ。

「ココでいいんじゃない?」

 妻が言ったその先には小さな、本当に小さなイタリアンレストランがあった。
「…・・」
「大丈夫、ほら安いし。それにさ、久しぶりだし」

 店の前に出ているメニューを指差し、僕の声を打ち消しながら。
 それよりも自分の照れを隠すように言う。

「うん。そうだね」
 笑いながら言い、店の中に入る。


 からん。


「いらっしゃいま…あ」
「あ」


 店の店員。いやテーブルを片付けていたシェフと声がはもる。

「ひさしぶりだな」
「あ、ああ」
 思わず声が詰まる。


 偶然。
 奇跡。


 いろんな言葉がよぎり、頭から離れていった。
 目の前にいたのは、高校を出てから行き先が分からなくなっていた友だちだった。
 いろいろと語った、友だち。



「オマエの店か?」
「そうだよ」

 なんのひねりもない、面白みのない言葉。
 それでもヤツは笑いながら、堂々と返してくれた。

「そっか。凄いな。……奇跡か…?」
「はははは。そうか?」
「……味大丈夫か?」
「大丈夫。食ってみろよ」
「……ああ」





 出された料理は盛り付けも味付けもよくて、2人とも残さずに食べてしまった。

 結局、お客が入らなかったこともあるが、ヤツは店を閉店にしてしまい、食べ終わった後にオレとずっと話をしていた。

 久しぶりにいろんな話をした。
 高校からのそれぞれやってきたこと。
 いつの間にか気がついたら妻との出会いまで話してしまっていた。

 ヤツ―――真二―――は高校を出てからすぐに外国へ料理修行へ行っていた。
 しかも美人な奥さんまで見つけて。
 そこから数年各地で働きながら修行をして、そして今年の2ヶ月前に運良く店を出すことができたらしい。



「じゃな」
「またな」
「ああ」


 最後に短く言葉を交わしてからまた来た道を引き返し始める。


「よかったね。いろいろ。美味しかったし」
「うん。でも…」
「でも…?」
「アイツ、超不器用でさ。実験では毎回絶対に1本は試験管割ってさ。
見舞いに折り紙で鶴折った時も絶対形が鶴になってねぇの。ハサミも使えない。調理実習では包丁で怪我しまくってたんだけどなぁ」

 そこまで一気にしゃべる。
 昔のこと。
 全部。
 今は、違う。

「ふーん。でも料理の盛り付けとかも味も繊細だったね」
「うん」
「それにさ、かっこよかったよ。話してて」
「そーだな」

 それはオレにも分かる。
 カッコイイと思う。


「キセキか…」
 ぽつり。
 そうつぶやく。






『キセキだよ。いや、多分キセキの上にいるだけ。ただそれだけなんだ』



 そう言っていた言葉が頭に響く。
 ふと思い、携帯を取り出す。


 メール作成で文字を打つ。
「………・・」


 思わず笑いがこぼれる。
 胸に何かすとんっと音がして落ちてきたような感じ。
 同時、少し涙が出てくる。
 どうして出てくるのか分からない、ケド。


「どうしたの? 再会に感動してた?」
「いや。別に。……また行こう…」
 そうつぶやいた言葉は多分自分へ向けたもの。


 確かに1歩1歩前に進んでる。
 時間の流れに惑わされそれが少し見え難くなってるけど。
 だけど、確実に。

 多分、それでいい。


 僕らはただ自分自身のキセキの上にいるだけだから。





<終>
Copyright(c)2001-2007 Sou Amaki all right reserved.

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2007/08/05 15:53 | Comments(0) | TrackBack() | 短編

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