紙飛行機
ちりーん
透き通った音が響く。
言うまでもなく、風鈴の音。
それでも教室から見える景色は大して変わることがない。
変わるのはやけに大きい雲と信じられないくらい暑い陽ざしくらい。
むしろ夏になったって変わるもんなんてあんまり、ない。
机にうつ伏せになる。
「疲れた…」
そう言葉に出すと余計に疲れが増してくる。
終業式が終わって学校が閑散としている。
それは自分のいる教室だって例外じゃない。
「帰ろ……」
明日から夏休み。
なぜかイマイチその気にならない。
夏休みのスケジュールはいっぱいなのに。
少し物足りなさを感じる。
「ま、いっか」
そう自分に言い聞かせるように立ち上がる。
瞬間。
「あーいたいた。…ったく探したっつーの。ゆーたも来いよ」
ガラッ。
そう勢いよく締められていた教室の窓が空いた瞬間にクラスの友達―テツ―の声が響く。
ふと見るとクラスの仲のいい連中が全員いる。
みんな一様に嬉しそうにしてるのが分った。
「なに?」
「いいから来いって」
思わず聞いた僕に答えるそぶりすら見せずに腕をひっぱっていく。
「ここだって」
テツがそう言いながら着いたところは屋上。
ちなみに普段は立ち入り禁止だったりするが関係ない。
「全員そろったな」
誰かの声が聞こえる。
気がつけばクラスの男子全員が屋上にいる。
みんなが座って紙を持ってたり、それを折り曲げたりしているのが分かる。
で、
目の前にはたくさんの紙飛行機。
「なにこれ」
ポカンとしながら思わず側にいたヤツ―真治―に聞いてた。
「いや、なんかテツが紙飛行機作ってて…・・」
内容は、テツが紙飛行機を作って遊んでたら皆がマネしだして大量に紙飛行機ができてしまい、どうせなら屋上から一斉に飛ばしてしまおう……そんなことだった。
「何それ」
それを聞いて思わず吹き出してた。
そう言いながらも別に悪い気はしないのは多分明日から夏休みだからなんだろうか。
「…・・っつ…」
久しぶりに来た屋上の端っこ。
すっと遠くを見ながら。そして。伸びをする。
曲がってた背骨が矯正されて真っ直ぐなっていくような感覚。
「やるか」
そう言いながらその辺にあった紙を一枚拾ってしゃがむ。
そして紙飛行機を折ろうとしたその紙を見る。
「ん?」
ふと気がつく。
「オマエ…・・コレ期末テストじゃん」
僕の手にあったのは山上智と書かれた地理のテストだった。
ちなみに56点。
辺りにある作られた紙飛行機を見るとテストの紙がたくさんまじっているのが分かる。
他には1学期に配られた家庭訪問の紙に夏休みの過ごし方と書かれた今日配られた紙。
果ては1学期最初の実力テストの紙まである。
「なんだコレ…」
思わずつぶやく。
「まーいいじゃん。たまたま机の中にあったんだし。有効利用しないと、な。ユータ」
僕の様子に気がついたテツがけらけらと笑いながらそう言ってくる。
―――ま、いっか。夏だし―――
屈託ないその顔を見てるといろいろとばからしくなってた。
「よっしゃーー飛ばそうぜー」
テツの声が聞こえてくる。
「「「せーーーの」」」
みんなの声が見事に重なる。
そして。
一斉に舞っていく紙飛行機。
いろんな方向に飛んでいく。
グランド、道路、プール、中庭、体育館の屋根…・・
おかまいなしに。
空が一瞬白で覆われるかと思えるくらいの、紙飛行機。
100以上の紙飛行機。
そのまま一瞬にして落ちる紙飛行機。
変な方向に曲がっていく紙飛行機。
まっすぐ飛んでいく紙飛行機。
そして。
風の乗ってどこまで飛んでいく紙飛行機。
次の瞬間。
笑い声が耳に響いた。
―――夏だな―――
急にわくわくしてくる。
「…海か…・・」
予定にある海を思い浮かべて何をしようかといろいろと考えてみる。尽きることなくやりたいことが浮かんでくる。
なぜかどきどきしてくるような感じ。
「夏だ」
ポツリと思い浮かんだ一言をもらす。
夏だ。
そう思った。
「おーいオマエも飛ばせよー」
向こうから声がかかる。
はっと我に帰ってその辺に落ちてた紙飛行機を飛ばす。
瞬間。
さらりとした柔らかい風。
風に乗っていく紙飛行機。
すーっと気持ちよさそうに。
ふと思う。
夏になって変わるもの。
―――風か―――
風を感じてみる。
吹き抜ける風は考える以上に気持ちがよかった。
シャワーのように全てをさっぱりとしてくれる。
「夏が始まるな…」
またそうつぶやいていた。
<終>
Copyright (c) 2001-2007 Sou Amaki all right reserved.
PR
トラックバック
トラックバックURL: