第1話 rewind 2
深夜。
結局、大地は何をするわけでもなく、街に行き、ゲームセンターで時間を潰した。
後ろでごちゃごちゃと何かを言ってくるエクスを無視しながら。
そして今いるのは大地の家のある町の隣町のはずれにある公園だった。
もう終電はなく、バスもない。そんな時間。
公園のベンチに1人ぽつりと座り、何をするわけでもなく、何かを考えているような、何も考えていないような、そんな不思議な感覚を自分で感じた。
それでも。それはただ全てから逃げているだけで。
そんな自分が1番歯痒かったし、悔しかった。
「ねぇ、もう時間ないんだよ。いいの?」
エクスがこれで何十回目かの同じセリフを大地に向けて放つ。
「聞こえてるって。何度も言わなくてもさ」
自嘲交じりの言葉。
空を仰ぐ。
「何すりゃいいのか分かんねぇ。オマエの言ってることがホントかどうかも分かんねぇし、もしホントだったとしてもどうすりゃいいのか分かんねぇ」
「それに圭祐のことも全然何していいの分かんねぇ。何にも分かんねぇ、ホントに」
「………ダメだな…ホント……」
ぽつり。自問自答のような言葉。答えのない問い。
そして。迷い。
自身を嘲笑う。そして。残るは空虚。
「あのさ、分かってると思うけどさ。僕は別にキミに死ぬから何かしてほしいってわけじゃないよ。別に僕はここに来ないでもよかったんだ。たださ………」
「…オレさ、ちっちゃい時この辺りに住んでてさ。よくこの公園にも来たんだ」
ブランコに座り、笑う。
そしてブランコを軽く漕ぐ。
同時、風が吹き周りに植えられている木々がざわめく。
「オマエ、ホントに何にもないのな……」
ぽつりと。笑いながら言葉が出た。
エクスが風を受けても全く影響を受けていなかったから。
そして。その時の顔は何もなく。キレイだった。
大地がブランコの上にたち、大きくブランコを漕ぎ始める。
それに合わせ、ギィギィと音を鳴らしてブランコが前へ、後ろへ持ち上がり、大きく弧を描く。
その軋むような音は鳴り止むことなく響き続けた。
「やっぱさ、このブランコもちっちゃいな。ガキのころはなんか空に近づくみたいな感じだったのにさ」
「そんなさ、漫画みたいな哀愁漂わせないでよ。さっきからさぁ」
ばっさりと。大地の言葉が切り捨てられる。
「はぁっ。そりゃないだろ……。意味分かんねぇことだらけだしさ。ドラマとかだったらこんなんじゃん?」
「そんな悩んでるヒマあったらちゃんと生きてよ」
そっぽを向きながら言い放った言葉はさらりと大地の耳を通った。
さらりと耳を通り抜け、なぜか。
身体の中で響き渡った。意味がつかめるようでつかめない言葉。
そんな言葉だった。
突然の大雨だった。
そして今いるのは公園から走ってすぐにあったコンビニの前。
「あーあ。これどうするよ……もうさ…」
「お疲れ様でしたー」
そんな声と共にコンビニの自動ドアが開く。
ふと、声につられるように顔をドアの方へ向ける。
瞬間。
「……大地」
「………美咲」
言葉が重なる。
大地の目の前に立っていたのは圭祐の彼女である美咲だった。
「………」
「…………」
「ここで……バイトしてんだ………」
妙な沈黙を破り大地が言葉を出した。
「近くだから、家が。この辺りに引越したの」
美咲が小さな声でそれに答え、さらに続ける。
「今からどうやって帰るの?」
「え?」
突然の思ってもいなかった美咲の言葉に思わずおかしな声を出した
大地を美咲はふわりと笑った。
その顔は純粋で。いつか見た表情とどこかが重なった。
そして。いつの間にか2人は歩き出していた。
「なんでこんなことになるわけ?」
「オレが知るかよ。そんなの」
エクスの大地を睨みながら言った言葉に大地がいい加減に答える。
大地が今いるのは美咲の部屋だった。
美咲のこの春から大学で、独り暮らしを始めていた。
「誰と話してんの?」
そう笑いながら、温かいコーヒーの入ったマグカップを2つ。
そこから沈黙続く。
その間、なぜか。いろいろなことを考えていた。
昔のこと。圭祐のこと。そして、隣にいるエクスのこと。
全てが現実にあるもので。
自分の中に確かに存在しているものだと思った。
マグカップから白い湯気が上がっていた。
ゆらゆらと細く、そして薄い。
思わず、今考えてるもの全部。
そんなのだったらいいのに。
そんなことを考えてしまい、同時なぜか苦笑してみる。
「………なぁ…」
「……?」
「オマエさ、最近圭祐をうまくやってんのかよ?」
「…………」
「アイツさ、最近オマエが変だって言ってたんだ。……なんかあったんか?」
ぽつり。ぽつりと。言葉を繋ぐようにして出た言葉だった。
大地にとって、1番簡単な問いで、楽な問い。
ただ、その奥底は見えなかったけれど。
ふと見ると、美咲がふっと笑うのが見える。そして、首を横にゆっくりとふり、
『大丈夫』という意味を伝える。
「…ホントか?」
思わず美咲の方に向きなおし、俯き加減になっていた美咲の顔を覗き込むようにして聞く。
そして美咲はそれに答えるように、もう1度うなづく。
それが酷く悲しく、痛い。
そしてそれを感じてしまう自分にもまた、痛みを思い出す。
「オマエさ、そんな顔して何もないって言うなよ」
笑いを繕う。
「……昔はもっと正直だったぞ?」
明るく。そして優しく笑いながら。
「圭祐さ、バカだけどホントに心配してたぜ。オレんとこにも来たしさ。
そんなことするやつじゃないのにさ」
続けて話かける。しかし、美咲はその大地の言葉を全く聞いているような
様子を見せず、どこを見ているのか分からない目を見せる。
何も映さないその目。
ただ、悲しみと寂しさの色を塗りこめているような。
そして。ふと。
笑う。
どんな時でも悲しく笑っている顔。
美咲は変わってない。
その顔を見ながらそう思った。
同時、どこかが痛む。
それでもそれは見せられず、消す。
「昔か。……大地は全然変わんないね…ホント」
「……なぁ、」
なぜか、言葉が切れる。
「どうしたわけよ。……あのさ…美咲。オレに言ったこと覚えてるか?」
「……。」
「オレはさ、お前を信じていいんだよな?」
真っ直ぐな言葉だった。
シンプルで、何にも包まれていない、大地の言葉だった。
ただ、それに対して答えが返ることはなく、美咲は俯くだけだった。
ふと。美咲の携帯が鳴り始める。
美咲が携帯を取り、画面に目をやる。その一瞬、美咲の顔が沈むのが分かる。
そしてそれが誰からのものか伝える。しかし美咲は見ただけでそれを取ろうとはしなかった。
「圭祐からだろ?」
大地の言葉に美咲がビクリとするのが分かる。
「出ろよ。圭祐すっげぇ心配してたぞ。それくらい分かってんだろ?」
優しい目で美咲を見つめながら言い加える。
「じゃ、またな。ちゃんと電話出ろよ。どうせ何回かかけてくるんだろ、アイツは」
そう笑いながら立ち上がり、部屋を出た。
ヒカゲノ唄 第1話-2<終>
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