プロローグ~for ending
「大地くん、もうすぐ死ぬんだけどさ。何かやり残したことない?」
夢うつつ、大地の耳に酷く軽い言葉が耳に入り込んだ。
「は?」
「いや、だからさ。もうすぐ死ぬって」
「何言ってんだよ………夢じゃん……夢…」
ふと。自分が本当に口にしていることに気付く。
まだ眠気の覚めない目をこすり、辺りを見渡す。
そこはいつも通り、全く何も変わらない自分の部屋。
閉じられたカーテンの下からは微かに明るい陽の光が見える。
はた、と。ベッドの向かい側。誰かと目が合った。
それは、子どもの極上の笑顔。
「………誰?」
「おはよう。僕、エクスって言います。あなたの見届け人です。ヨロシク」
思わず漏れた問いに返ってきたのは10歳ほどの子どもとは思えない流暢な言葉。
そして、意味の分からない単語が耳に残る。
「………見届け人って何だ? ………っつーか、キミ誰?」
「だから見届け人だよ。…つまり、簡単に言うとさ、大地くんがもうすぐ死ぬからちゃんと死ぬかどうか見届けるのが僕の 役目」
至極真面目に、丁寧に。なぜか少しはにかみが残るような口調の説明だった。
「………」
「……」
「…………」
「…」
なぜか。自分が考えているのに気付く。
「で。ホントはどっから入ってきたの。お母さんは? ホントの名前……は?」
自分の発している言葉が段々と消えていくのが分かった。
目に映る少年の表情が他人を馬鹿にした酷くその顔とは似合わない表情が映っていたから。
「こっちもさぁ、好き好んでやってるんじゃないんだからさぁ、そんなベタな反応しないでよ。面白くないから。毎回毎回毎回毎回、みんな同じ反応なんだよね。ヒトを子ども扱いしてさ。…………ね、聞いてる? 大地くん」
「……あ、うん」
「よっし。ってことで今日からヨロシクね」
こちらを見つめるその表情は再び純粋で。
「………は?」
「だから、今日から大地くんが死ぬまで一緒にいてあげるってこと。ほら、大地くんも悲しいだろうし、悩むだろうしさ」
「………」
なぜか。
その言葉。口調。様子。
全て。
納得させられそうな、妙なものを感じる。
同時、そんな自分に対して必死に抵抗する。
「……あ、大丈夫。他の人には見えないしさ。干渉もしないし。ねっ」
語尾に妙なアクセント。
酷く違和感のないその言葉たち。
「……はぁ」
自分でも驚く程大きなため息だった。
同時、感じたものは妙な威圧感。
何より。自身の否定。
酷く俯瞰的に見ることのできるその姿。
「………はぁ」
もう1度出したため息は自分をどこからか救った。
そしてもう1度、考え出していた。
プロローグ <終>
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